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その6 第六話 マキの料理

Author: 彼方
last update Last Updated: 2025-09-09 11:00:00

53.

第六話 マキの料理

 私もマキも仲良く両名付き合ってもらうと決めた日。店の暖簾を仕舞うとマキと話し合いをすることになった。

「さて、契約書の内容どんな感じにしようか」

「とりあえずアタシたちで考えとこうよ。決め事を作っといたほうがいいのはアタシたちの方なわけだし」

「そりゃそうね。私たちは二人で一人の男を分け合うんだから」

「ねえ、お腹すいてきた。何か作ってよ」

「もう本日は営業時間終了でーす。キッチン使わせてあげるから自分で作って下さい」

「ちぇっ。ケチ」

 そう言うとマキは立ち上がり、キッチンの大きな冷蔵庫をガパッと開けた。

「冷蔵庫にある野菜やら肉やら使っていいの?」

 冷蔵庫を覗き込みながらマキが聞いてくる。どうやら何か作るイメージはあるようだ。

「いいよ、どうせ明日買い物行くし、お好きにどうぞー」

「よーし、そしたらまず玉ねぎを切って……」

トントントントン 

 マキがリズム良く包丁を使う。意外だ。私の記憶の中では彼女はこんなに器用ではない。

「包丁の使い方慣れてるじゃん。マキ、家で料理やるようになったのね」

「何歳だと思ってんのヨ! たまには作るっての」

「フフ、そりゃ失敬」

 するとマキがキョロキョロと辺りを見回した。何かを探しているようだ。

「何探してるの?」

「んー。焼酎の空瓶がないかなーって」

「『鏡水』の空瓶ならあるよ。何に使うの?」

 私は焼酎の空瓶をヒョイと渡した。

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